患者の死とどう向き合うか
こんにちは。がん専門医の上野直人です。
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私は乳がんの専門医として、ターミナル(終末期)の患者さんとかなり多く接します。今回の記事では、患者さんにターミナルである事実を伝えるとき、私が意識していることについてお話しします。 非常に重いテーマですが、医師として死とどう向き合っているのかを伝えることで、現在ターミナルの方やその人たちと向き合う医師の役に立つことを望むものです。
今回の記事は、主観的な内容も多分に含むため、記事中盤から有料登録者に限定して公開させていただきます。
本記事と連動する形で「死とどう向き合うか」というテーマでスレッド(掲示板)を立てました。スレッドは本ニュースレターの有料登録者と私だけが閲覧と書き込みが許されるもので、がんに関する体験談や意見を共有することを目的としています。匿名で書き込めるので、参加者の心理的安全性を確保しています。ぜひ、皆さんの体験や意見、記事への感想を共有してください。
目次
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ターミナルであることを伝えるときに重要なこと
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「どう死ぬか」より「どう生きるか」
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「自分も死ぬのではないか」という恐怖
ターミナルを伝えるときに重要なこと
患者さんの反応
ターミナルであることを告げると、ほぼすべての患者さんはショックを受けます。当然です。
しかし、その後は大きく2つのパターンがあります。一つがターミナルであるという事実を受け入れられる人、もう一つがその事実をまったく受け入れられない人です。
受け入れられる人は、事前に医師からターミナルの可能性や実際にターミナルになったときどうなるのかについて説明を受けていた人が多い印象です。
一方、まったく受け入れられない人は、そうした説明を一切受けておらず、頭の片隅にも自分がターミナルになるとは思ってもいなかった人が多いと感じます。
タイミング
したがって、ターミナルであることを伝える際に重要なるのは「いつ伝えるのか」というタイミングです。
私の場合はターミナルになる前から死を迎える際のプロセスをなるべく早い段階からお話をするようにしてます。
いろんな治療選択肢を説明し、本当に調子が悪くなってきたときにどうするのかという話を元気なうちにする必要があるからです。
いずれ直接がんを治療をしないということだって起こりえますし、緩和を中心とした治療に移行する可能性があることをターミナルになる前に話をしておきました。
そうしておくことで、実際にターミナルになったときでも、患者さんに受け入れてもらえる可能性が高くなります。
逆に受け入れてもらうことが難しいのは、ターミナルになった後のことについて十分な説明を受けてこなかった人にどうそれを納得してもらうのかということです。
私のような専門性の高い医師のところへ来る患者さんは、すでにターミナルであることも多く、説明を十分に受けていないケースが少なくありません。
アドバンスケアプランニング
ターミナルになってから、終末期のプランニングをするのではタイミングが遅すぎると言えます。
アドバンスケアプランニング(ACP)という概念があります。ACPとは、その人がその人らしい最期を迎えられるように、元気なうちから考えておくというもの。今回の文脈に即して言い換えると、ターミナルになる前に自分の最期について医師と相談するということです。
しかし、多くの人はそれをしません。そして、私の経験では調子が悪くなってからターミナルであると告げても、患者さんの満足にはつながりにくい。海で溺れている人間に対して、浮き輪が欲しいですか?と聞くようなものです。 とりあえず浮き輪をもらうという選択肢しかない状況にいるので、彼らが自分らしく満足して人生を終えるために落ち着いて準備をする時間がなくなってしまうのです。
ターミナルになる前に選択をしろといってるわけではないけど、何が起こりえるかを事前に想定して、そのときにどうすると自分は幸せになれるのかを考えておくべきだと思います。あまりこういう話してもハッピーではないけど、思考が明晰である段階で医師から情報を与える必要があります。
ターミナルとはなにか
定義
先ほどから、ターミナルという言葉を使っていますが、その定義はかなり曖昧です。
例えば、固形の乳がんは広がると一般的に治らないと言われているので、その時点でターミナルと取るのか、しかし、患者さん本人はピンピンしているということがあります。
本人がどれだけ社会的な活動ができるかという指標にパフォーマンスステータスというものがありますが、それがどんどん下がっていってる状況で、がんがコントロールできない状態をターミナルというのかなというふうに思っていますが、どの医師も定義がまったく同じというわけではありません。
流儀
「あなたはターミナルです」という表現は、僕はしないかな……ターミナルということは病気をコントロールすることができない、調子悪くなっていて、治療しても全体の状態をさらに悪化する可能性があるってこういういくつかの点が揃ったときに、次はどうした方がいいかということを医学観点から僕は考えて患者さんに伝えます。その際に、私は「治療を続けますか、やめますか」といった二者択一のアプローチをあんまりしないんです。医師ごとにスタイルがいろいろありますが。
二者択一を患者さんにお願いする場面がある場合でも、「いよいよこれはもう治療しない方がいいというふうに思う」っていう私の意見を言ったうえで、複数案を提示するようにしています。