「がん早期発見のリスク」検診前に知るべき体と心とお金の負担

不必要な検査を受けることで患者さんが不幸になるケースがあります。
上野直人 2023.05.15
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Introduction

がんの早期発見に対してどんな印象を持たれますか。がんを早く見つけるのだから良いことだと考える人が多いのではないでしょうか。

早期発見のために受けるべきがん検診を受けた方がいいという考えには私も賛成です。しかし、早期発見が患者さんの人生を豊かにするかどうかはまた別の話なのです。今回は少し複雑ですが、非常に重要な話をします。

それどころか、「受ける必要がない健診」によって「見つけなくてもよいはずのがん」を見つけてしまうことが、身体的・精神的・金銭的な負担の増加を招く恐れもあります。むやみに検診を受けることで、そうした負うはずのなかったリスクを負ってしまいかねません。

今回は検診を受ける前に把握してほしいリスクについて次の観点で書いていきます。

Contents

  • 早期に発見すべきがん、発見すべきでないがんの違い

  • 「見つけなくていいがん」を見つけてしまう「過剰診断」のリスク

  • 国が推奨するがん検診とそうでない検診は何が違うのか?

  • 国によって推奨する検査が異なるのはなぜ?

  • 受けるべき検診と受けないほうがいい検診について

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早期発見すべきがん、そうではないがんの違い

がんの早期発見は重要だという一般的な考え方には賛成しますが、がんを見つけたからといって必ずしも人生がより長く、より豊かになるわけではないことは理解しておくべきです。

そのため、早期発見の具体的なアクションである検診について考える必要があります。たとえば、大腸がん、乳がん、肺がん、胃がん、子宮頸がんといった国が推奨しているがん検診がありますが、それらは早期発見につながり、生存期間の延長や治療の成功率の向上など、トータルでポジティブなインパクトがあるため推奨されています。

しかし、推奨されていない検診、つまりがんを発見したとしても患者のベネフィットが低いものについては、本当に意味があるのかわからないのです。

健康に生活されていた人が亡くなられて解剖すると、がんがよく見つかるわけです。だから、「がんが体にできた=手術で取り除かないといけない」というわけではないんです。がんは常に発生したり、自然に消えたりを繰り返しているのです。

つまり、早期で発見すべきがんというのは、「進行が早い」とか「自然に消えない」といった「人を死に至らしめるがん」のことを指します。すべてのがんが人を殺すわけではありませんから、すべてのがんを早期に発見する必要はないのです。

しかし、医療者の中には、やたらと検診を勧める人がいます。検診でお金を稼ごうとしている医師がいるかどうかは断言できませんが、「早期発見=いいこと」という単純な認識で必要以上の検診を勧めてしまうのでしょうか。「小さいうちに取るのが最善なんだ」という考え方ですね。私も直感的にはそう思ってしまうので理解はできます。

しかし、医療行為は最終的に患者さんの健康に資するかどうかで判断されるべきという前提に立つと、むやみに検診をおすすめすることが必ずしも患者のためにならないケースが多々あることを医療者も理解しないといけないでしょう。

また、読者の皆さんにおかれても、むやみに検診を受けるのではなく、検診を受けることのリスクをよく理解してから判断していただければと思います。

「見つけなくていいがん」を見つけてしまう過剰診断のリスク

すべてのがんを早期に発見する必要はない。そう聞くと、多くの方はこう思うのではないでしょうか。

「仮に人を死に至らしめるがんでなくても、早く見つけることでリスクの芽を早く摘んでしまうのはいいことなのではないか」と。

ここからが非常に重要な説明となります。直感とは反する話になるので、少し難しいかもしれないです。なので、理解しづらい点があればスレッドでも聞いてくださいね。

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