「食べてはいけない」のウソ
「食べてはいけない」とネットで検索すると、YouTuberやメディアがこの類のコンテンツを量産していることがわかります。しかし、医学的に食べてはいけないものなど存在しません。今回は「食べてはいけない」が制作されるカラクリとそれを招いている西洋医学の限界について解説します。
目次
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「食べてはいけない」のカラクリ
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食と病気の因果関係は証明困難
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西洋医学の限界と東洋医学との融合
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患者からよく質問される「食べてはいけない」
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私も手を出した「マンゴスチンジュース」
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「食べてはいけない」のカラクリ
「食べてはいけない」とは、YouTubeやメディアで盛んにコンテンツが制作される企画の一つです。「ある食材を食べることで病気になる」といった文脈で視聴者や読者の恐怖をあおっています。特にYouTubeでは、医療系の発信者たちがこぞって手を出している企画で、数百万再生を超える動画も少なくありません。
なぜこの類のコンテンツが量産されるのか。それは情報発信者にとって都合がいい論文や事例を見つけるのは実に簡単だから。ネット調べたら何かしらの「根拠」を見つけることができてしまいます。そして、それを上手に喋ろうと思ったらいくらでもできる。絶対にやりませんが、私にもできます。
世の中には膨大な量の論文が発表されていて、ブロッコリーの効果を謳う論文はすぐに見つかります。もちろん、逆にブロッコリーの効果を否定する論文を見つけることも難しくありません。オープンソースの論文が出回る様になってからは、特にその傾向が顕著になりました(過去記事「『怪しい医療情報』にダマされないために」参照)。
私のように医師であり、医療や製薬に関する論文を日々精査している立場の人間であれば、ブロッコリーを売れと言われたら、大量に売ることができると思います。ブロッコリーに関して、肯定的な論文だけを集めて、それを根拠として「〇〇にブロッコリーが効きます」と言えばいいわけですから。簡単なことです。
つまり、作ろうと思えばいくらでもコンテンツを作れてしまう。これが金脈に見えてしまう人たちが書籍やYouTubeを通して「食べてはいけない」と発信してしまうのです。結果として、書籍を購入すれば書籍代が無駄になりますし、YouTubeを視聴すれば時間を奪われます。さらに、それによって食べる楽しみを奪われることがあれば、これも深刻な問題です。
出典:YouTube(「食べてはいけない」の検索結果上位のスクリーンショット)
また、論文に書いてあるからといって効果が証明されたわけではありません。論文は広告のようなもので、都合の良い実験結果だけが掲載されている可能性ありと捉えた方がいい(特にインパクトファクターが低いほどその傾向あり)。鵜呑みにするのは危険です。(過去記事「『怪しい医療情報』にダマされないために」参照)
このように医療や健康について証明されていない不確かな情報を広める人間が、金銭的インセンティブによって意図的にそうしているのか、それとも「情報を精査する能力」が欠けていている人間が意図せずそうしているのかはわかりません。いずれにせよ、医師の中にも論文の読み方を知らない人が多くいることは確かです。ましてや医師ではない人であればなおさらです。「論文に書いてあって将来が期待されている治療法なのに、なぜ患者に提供しないんだ」と主張する医者に何度も遭遇したことがあります。医者の発信だから安心できるわけではないのです。
YouTubeで人気となっている「食べてはいけない」シリーズ。これらのコンテンツに対する私の見解は「そんな食材は存在しない」というものです。食と健康に関して、私が医師として言及できることは次の通りです。
栄養バランスの良い食事をとりながら、過度な体重の減量や増量をしない。
これだけです。面白くないと感じられたでしょう。しかし、正しい情報の「つまらなさ」がYouTuberやメディアに利用されてしまうのです。
西洋医学の現在地からはこれ以上のことは言ってはいけません。これ以上のことを言っている場合、それは論文を拡大解釈していると言い切っていいと思います。食と健康については、わかっていることはほとんどないのです。そのことについて、ここから解説していきます。
食と病気の因果関係は証明困難
食と病気の因果関係はほとんど証明されていないと言っても過言ではありません。理由は、ある食材が本当に効いてるかどうかを科学的に証明することはもうほぼ不可能なタスクだからです。
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- 西洋医学の限界と東洋医学の可能性
- 患者からよく質問される「食べてはいけない」
- 私も手を出した「マンゴスチンジュース」
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