患者を救い、医者も守る「チーム医療」

西洋医学の理念を体現する医療プロセスについて、アメリカの事例と日本の課題を取り上げる。
上野直人 2022.11.22
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患者にとって最適な治療を提供するために、医療従事者どうしが知見を持ち寄って議論を交わすというのがチーム医療という考え方です。

今回は、アメリカで私が実際にどんな方法でチーム医療をおこなっているのか、そして日本における課題についても取り上げます。

チーム医療は、患者にとってメリットがあるのはもちろんですが、医師にとっても利点がある仕組みでもあります。つまり、医療を提供する側と受ける側にとってWin-Winの考え方なのです。

また、チーム医療には組織論やマネジメントといった知識が不可欠です。これらは、私たち医師が医学部で学んでこなかった分野であり、医師の学び直しという観点も浮かび上がってきます。

目次

  • チーム医療、2つの役割

  • アメリカでの運用について

  • 講演に寄せられる現場の声、日本の課題

  • 日米の差は何に起因するのか?

※このニュースレターは、米国がん専門医である上野直人が誤った医療情報に騙されないための知識や考え方をお届けしていきます。患者さんや医療従事者がヘルスリテラシーを高められるように、継続的に発信していきますので、来週も受け取りたい方はぜひ登録をお願いします。なお、本記事の内容は、一般の方でもわかるように簡素化していますので、治療については必ず医療従事者と直接相談したうえで、自らに合う選択をしてください

チーム医療、2つの役割

チーム医療を一言で表すと、その患者さんの受けるべき医療と受けたい医療のバランスを医療従事者が集まって考えて、患者にとって最適な医療を提供することだと思います。

なぜ複数の医療従事者が集まる必要があるかというと、 一人ひとり違う患者さんにパーソナライズした医療を提供することができるようになるからです。同じ治療法を与えたとしても、どの患者も等しく満足度が得られるとは限りません。

誰かがあるレストランを美味しいと高く評価しても、まったく美味しくないと感じる人もいるのと同じです。これは最初におすすめした人が間違っているのではなく、何に美味しさを感じるのかという味覚や価値観の違いに起因するものです。

患者さんの治療に対する満足感も、本人の人生観とか過去の経験というのがすべて影響してくるんです。患者が受ける医療の質を高めるためには、患者さんが何を求めているのか、どんな治療を受けたいのか、どんな人生観を持っているのかを医療を提供する側が汲み取る。これがチーム医療の目的の一つです。

そして、チーム医療にはもう一つ重要な目的があります。それは医療の正確性を担保すること。これまでの記事でも何度も取り上げてきましたが、医療はパズルのようにはっきり白黒をつけられるものではありません。これは、難しい病気ほどその傾向が強くなります。

医療は絶対的に正しいものと絶対的に間違ってるものは、ほとんど存在しません。大概の医療行為はそれらの間にあって、専門医どうしでも治療に対する考えが考えがズレることがあります。

例えばその臨床試験をしてAに優位性があるという結果が出たとしても、臨床試験の被験者と条件が一致する患者さんは現実にはほとんどいないわけです。合併疾患やがんの進行度合いといった症状の観点でもそうですが、普段何を食べているのか、どのくらい運動するのかといった生活習慣などもまったく異なります。

つまり、ある医学的なエビデンスに対して、医師は自分の患者がどのくらい当てはまるのかを推測しなければいけません。そして、特に推測が難しいものに対しては、他の医師と議論を交わすことで最善の治療方針を模索するのです。

複雑に絡み合った条件をそれぞれの知見から議論し合って最終的な医療行為を決めないといけないから、チームで議論をするプロセスを経て医療を提供していく。チーム医療自体は、患者のための医療を提供しようとする際に、ごく自然に発生する現象なんです。

仮にある治療に対して、10人が賛成して1人が反対というものであるなら、それを採用すればいい。しかし、賛成が5人で反対が5人という場合、意見の不一致があったときには話し合いをして、コンセンサスを得るっていうことが重要となります。

そこで、医師だけでなく、ときには薬剤師や看護師、ソーシャルワーカーなども参加して(私の病院は規模が大きく、ターミナルの患者さんを多く扱うので参加者は多様で人数も多くなる傾向があります)、多様な情報と意見をテーブルに乗せて議論をします。

意見の違いを前提として、それぞれの立場から知見を共有し合うのです。医療だけではなくビジネスの世界でも同じだと思いますが、ある人の独断専行ではリスクやあやまちを見逃すことが多くなるでしょう。しかし、複数人がそれぞれの知見を持ち寄って議論をする過程を経ることで、より良い医療をより低いリスクで実現することができるという考え方がチーム医療の根底にあります。

患者にとって考えつく限りで最善の医療を科学的根拠に基づいて提供しましょう、というのが現在の西洋医学において最も重要な理念です。その理念を支える具体的な方法の一つがチーム医療だといっても過言ではありません。

チーム医療先進国・アメリカでの運用について

私が身を置くアメリカで、どのようにチーム医療が行われているのかを解説します。

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続きは、3401文字あります。
  • 講演に寄せられる現場の声、日本の課題
  • 日米の差は何に起因するのか?

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