医師の見解が分かれるのはなぜか
コロナ禍においてさまざまな言説が論文を引用する形で展開されました。しかし、論文を正確に読むことは非常に難しく、時間をかけた「訓練」が必要です。そして、この「訓練」はすべての医師が積んでいるわけではなく、そのことが「コロナ禍で医師の見解が別れる」という現象にもつながりました。今回は「正確に内容を読めない人が論文を使うことの危険性」について次の観点から書いていきます(前回の最後に予告していた「がんとダイエット」は、次回に延期いたします)。
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コロナ禍で論文が引き起こした悲劇
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論文の質を決める要素は?
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論文が読めなくても医者になれてしまう
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論文が読める医師か読めない医師かを見分ける方法はない
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患者さんが論文を読むときに気をつけてほしいこと
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コロナ禍で論文が引き起こした悲劇
論文は、正確に内容を読めない人に単なる宣伝媒体として使われると恐ろしいことになります。これは、コロナ禍のSNSが証明してくれました。
こうした状況になった背景には、未知の感染症における特有の事情があります。これはMARSやSARSの時も一緒でした。下のグラフは「coronavirusに言及する科学論文の推移」を示したものです。感染症のパンデミック発生とともに、関連する論文の数が急増する傾向が見て取れます。
The Economist「Coronavirus research is being published at a furious pace」
未知の感染症は、感染拡大以前に研究されていないので、急速にさまざまな質の論文が世の中に出回ることになります。この中の一部の質が低い論文が拡散されることで、コロナやワクチンに対する陰謀論のようなものが発生に貢献しています。あるいは、論文に問題はないのに読み方を間違えているあるいは拡大解釈されたケースも散見されました。これはアメリカでも日本でも同じです。パンデミック感染症に比べると確立された分野である、がんですら誤った情報が出回るくらいですから、未曾有の感染症となればなおさらその傾向は強くなるのは容易に想像できます。
論文が読める人間からすると、「なんでそんな質の低い論文を使っているんだ」「そんな読み方はできない」と失笑してしまうものばかりです。しかし、こうした質の低い論文やワクチン陰謀論にハマってしまうのは、一般の方だけではありません。あろうことか医師までもがそちらに落ちてしまっている現状があります。
その理由は、論文を読むには時間をかけた訓練が必要だからです。したがって、医師であってもこの訓練を積んでいない人はワクチン陰謀論にハマってしまうというカラクリです。
ここからは「論文の質はどう決まるのか」と「論文はどうやって読めるようになるのか」という大きく2点について書いていきます。最初に断っておくと、この後の文章を読んでも論文が読めるようにはなりません。代わりに「訓練を積んでいない人がなぜ論文を振りかざしてはいけないのか」という理由を説明していきます。もう一つ先にお伝えすると、「だから、患者さんは論文を読むな」という結論にもなりません。読んだ後にしてほしいことをお伝えします。