「インフォームドコンセント」後悔しないために知っておくべきこと
医療行為に対して説明を尽くして患者さんから合意してもらう行程をインフォームド・コンセントといいます。しかし、インフォームド・コンセントを「患者からサインをもらうこと」くらいに考えている医師は少なくない。治療のリスクや詳細をよく理解しないままサインしてしまうと最終的に困るのは、医師ではなく患者さんです。何か問題が起きたとき、サインがあることで医師は守られますが、患者さんは犠牲となってしまいます。そうならないために、今回はインフォームド・コンセントをテーマに次のような内容を解説していきます。
▼目次
-
なぜインフォームド・コンセントが必要なのか?
-
医師は「すべてを説明すればいい」わけではない
-
患者がやってはいけないこと
※このニュースレターは、米国がん専門医である上野直人が誤った医療情報に騙されないための知識や考え方をお届けしていきます。患者さんや医療従事者がヘルスリテラシーを高められるように、継続的に発信していきますので、来週も受け取りたい方はぜひ登録をお願いします。なお、本記事の内容は、一般の方でもわかるように簡素化していますので、治療については必ず医療従事者と直接相談したうえで、自らに合う選択をしてください。
なぜインフォームド・コンセントが必要なのか
患者さんに対して何か医療行為をするとか、あるいは治療を提供するときに事前に医療従事者と患者との間で合意を取ることが必要です。
国立がん研究センターが運営するがん情報サービスでは、次のように定義しています。
医療行為を受ける前に、医師および看護師から医療行為について、わかりやすく十分な説明を受け、それに対して患者さんは疑問があれば解消し、内容について十分納得した上で、その医療行為に同意することです。すべての医療行為について必要な手続きです。もともとは米国で生まれた言葉で、“十分な説明と同意”と訳される場合もあります。
残念ながら、同意書に患者さんからサインをもらうことを目的と考えている医師は少なくありません。同意書へのサインは形式的な結果にすぎないのであって、重要なのは治療を受けた後に患者さんが満足できるかどうか。言い換えると、合意に至るまでの説明の過程なのです。
ただ、実際に私がインフォームド・コンセントを取るときに、説明する前にサインさせてくださいと言ってくる患者さんがいらっしゃいます。極端な例かもしれませんが、治療内容をよく理解しないまま同意しようとしてくる人は今でも少なくありません。決して医師側だけの問題ではないのです。
そして、そうした質の低いインフォームド・コンセントで困るのは、医師ではなく患者さんです。法的には医師がサインを盾にすることができるからです。以前も書きましたが、医療訴訟リスクに備えるディフェンシブ・メディシン(防衛医療)の側面もあるので、早くサインが欲しいと考える医師が出てきてしまうという構造的な問題も考えられます。
こうしたリスクから身を守るために、患者さん自身がインフォームド・コンセントについて理解しておく必要があるのです。