乳がんの初期症状と予防について
私の専門である「乳がん」について、初期症状と予防方法について紹介します。10月はピンクリボン月間です。世界規模で乳がん検診の早期受診を呼びかけられています。先進国の中で日本の乳がん検診受診率は低く、欧米では検診率の上昇に伴って死亡率が減少傾向なのに対して、日本の死亡率は減っていません。この記事をきっかけにより多くの方に検診を受けてくれることを切に願います。乳がんは女性の部位別がん死亡数で5位(2020年)で、年間15,000人が亡くなる病です。初期症状を知っておくことで、進行する前の早期に発見しましょう。
目次
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「罹患数と死亡数」の増加
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進行度別「生存率」
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7つの「初期症状」
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「検査」の方法とプロセス
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「予防」は5つの方法だけ
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「誤情報」に苦しむ患者
※このニュースレターは、米国がん専門医である上野直人が誤った医療情報に騙されないための知識や考え方をお届けしていきます。患者さんや医療従事者がヘルスリテラシーを高められるように、継続的に発信していきますので、来週も受け取りたい方はぜひ登録をお願いします。なお、本記事の内容は、一般の方でもわかるように簡素化していますので、治療については必ず医療従事者と直接相談したうえで、自らにあう判断をしてください。
「罹患数と死亡数」の増加
初期症状を紹介する前に、乳がんに関する現状を少し整理します。
下図は日本における乳がんの罹患率と死亡率の推移を示しています。罹患率については上昇基調にあり、死亡率は2005年あたりまでは比較的緩やかな上昇基調であったものの、以降は10%強付近で横ばいに推移しています。
(注)基準人口は昭和60年(1985年)モデル人口を使用出典データ:高精度地域がん登録罹患データ、人口動態統計死亡データ
乳がん増加の要因として、欧米型の食生活が挙げられます。実際にアメリカに移住した日本人の乳がんの発症率は、移住していない人より高いことがわかっています。しかし、それらによって「乳がんが増えている」と言い切ることは難しいでしょう。もう一つの増加要因として考えられるのは、「発見が増えた」ということ。検査の件数が増え、精度が向上したことで乳がんと認知される数が増えたのではないかと思われます。
注目すべきは、絶対数ではなく、罹患率が上昇している割には死亡率が上昇していないことです。実際に欧米のトレンドでは、確実に死亡率は減っていると専門医の間では認識されています。その要因として考えられているのが、治療の改善と早期発見だと言われています。
進行度別「生存率」
がんは早期発見が重要だとよく言われますが、これは概ね正しいと考えています。ただし、早期発見が人生のわかれ目になるとは言い切れません。検査をたくさんすることで、発見数を上げることが生存率を上げることは科学的に証明しきれていないからです。
出典データ:地域がん登録生存率データ(最新データ(進行度別)シート)
限局:原発臓器に限局している
領域:所属リンパ節転移(原発臓器の所属リンパ節への転移を伴うが、隣接臓器への浸潤なし)または隣接臓器浸潤(隣接する臓器に直接浸潤しているが、遠隔転移なし)
遠隔転移:遠隔臓器、遠隔リンパ節などに転移・浸潤あり
このグラフから言えるのは、「遠隔(乳がんにおけるステージ4期のがん)」は、現時点では完治させることが難しく、5年後生存率は40%とものすごく悪い。これは10年後生存率となるとさらに下がるはず。だから、「早期発見」と併せて、「遠隔になるまでに段階で見つける」ということは重要だということは言えると思います。
7つの「初期症状」
がんの初期症状として、よく取り上げられる6つを紹介します。これらの症状が1つしか出ない場合もありますし、組み合わせで現れるパターンもあります。大事なことは「自分の変化」を見逃さないことです。